博士課程一問一答

博士課程 Advent Calendar 2014 のエントリーです。


Q0. 筆者プロフィール
東大情報系博士課程を13年9月学位取得し修了。
専門は自然言語処理


Q1. 博士課程ってなんですか

今から振り返ってみると、「新人がいきなり一人前の研究者として活動されると危なっかしいから、修了するまでに最低限の経験は積んでおいてね。博士の間は失敗は許してやるからさ。」
という教育としての側面が大きいと思います。
博士課程にいた頃は、「研究者として使い物になる人材を選別するための期間」と思っていましたが、いかに天才を持ってきても、やはり、未経験のうちは失敗はするものだと思います。
(もっとも、優秀な人は、1教えれば10の成果を出すのも事実なんですが)




Q2. なんで博士課程に進学するんですか

「したんですか」ですね。
自分が技術者として成功する確率より、研究者として成功する確率の方が高かそう、と思ったからですね。
卒論が、配属初日に通学電車内で30分ぐらいで思いついた研究テーマを持って行ったら、卒論の指導教員の先生(博士の指導教員とは違います)に「それは、確かにまだないね」と言われて、そのまま研究テーマにOKが出て、
その研究テーマで、卒論、国内学会デビュー、分野の2nd Tier国際会議、初ジャーナル、までトントン拍子にいったのが大きいですね。
この研究は、特に賞とか取ってないので評価は、「まぁまぁ」だとは思いましたが、「自分には、どうやら、競争相手のいない研究テーマを見つけ出す直感みたいなものはあるようだ」、という自信がつきました。
結果だけ見ると、最初に30分で思いついたアイデアがトントン拍子に形になったので(今考えると、偶々類似研究がなかっただけかもしれませんけど)、同じレベルの応用ならいくらでも思いつける、と思ったことがありますね。



Q3. 普段どんな生活してんのさ

これも「してたんですか」ですね。
昼夜逆転したりとか、色々生活が乱れたこともありましたが、そういう生活の乱れはタイムロスも大きいですので、週の総労働時間で見ると、普通に9時−5時ペースで働くのが良いと思います。

Q4. 在学時の金銭問題に関して一言

私個人について言えば、一人っ子+実家という家庭事情により、金銭問題はなかったです。
「金銭問題がない」という家庭事情が、博士課程では大きなアドバンテージになる事も見込んで、進学しました。
(逆に、そういう立場の人間が、扶養者の収入が関係する奨学金をもらうのはアンフェアだと思ったので、親にいくら言われても奨学金は申請せず、親に払わせました。親の収入からすれば、私の学費など大したものではないことは分かっていたからです。)
僕が博士に進学する頃、東大は、博士の学生全員に、学費と同額の給付金を出して、実質学費無料化しようという計画がありました。
結果的に無料にはならなかったんですけど、学費半額分の給付金はもらえたので、学振を取るまではそれを使ってました(この給付金は本人の業績評価で扶養者の収入関係なくもらえるので、アンフェアではないと思います)。
実質、学費は年間30万円になるので、この半額制度も大変ありがたい制度だと思います。

Q5. 学振について
学振DC2を博士3年の後半(10月入学だったので)4月から、2年間もらいました。
邦文ジャーナル1本、ACM Transaction1本(内1本は当時採録決定)、トップカンファレンス1本、2nd Tier1本、国内の若手の会の奨励賞が一つ、IPSJの研究会の学生奨励賞が1つ。
お金のことよりも、ようやく、自分の研究が認められたのだ、という感慨が大きかったです。
誰もいないMTGルームで、ネットから結果をこっそり見て、喜びの叫びをあげたら、廊下を通りがかった人が何事かと見に来たのを思い出します。


Q6. インターンについて

楽天技術研究所NYに行きました。
結果的に、博士の業績には繋がりませんでしたが、大変楽しかったです。

情報系なら、Microsoft Research系の研究所インターンには、ぜひ行くべきだと思います。というか、色々あってMSR系のインターンに行けなかったのが博士課程の心残りです。



Q7. 楽しいこと3つ

1) 誰からも認められる確実な「世界初」の安心感
2) 役に立たなくても新しければ良い
3) 自分の名前が残る

研究以外の世界でよくある「世界初」は、「世界初(自社調べ)」、つまり、「自分の所属組織が世界初だと評価した」というだけの事も多いです。
でも、研究では、第三者から見ても確実に「世界初」なものだけが査読に通ります。従って、良くも悪くも自分に対する評価を安心して信じることが出来ます。だからこそ、認められた時の感慨も大きいのだと思います。

「役に立つ」ということと、「新しい」事は全く違います。役に立つまでは膨大な作りこみが必要ですが、その中で新しいことはほとんど必要ない…という事が、往々にしてあります。
ベンチャーにアルバイト的にちょっと働いていたこともあるのですが、役に立つほうが、新しいことをするよりもずっと大変だと感じました。
それも博士課程に進学した理由の一つですね。

後、自分の名前が残るのも大きいです。これにどれだけ意義を感じられるのかは、人によると思います。


Q8. つらいこと3つ

1) 不安定な未来
2) 業績が修了要件になかなか達さない
3) 博論執筆そのもの

Q9. 現時点で後悔していること

やはり、 色々あってMSR系のインターンに行けなかったのが博士課程の心残りです。

Q10. 博士課程に向いている人

「Q7.楽しいこと3つ」に書いたことに意義があると感じられる人が良いのではないでしょうか。